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12月は犬が登場

といっても私は犬のことに疎いのです。
一度は家族の中に犬が混じっていた遠い記憶があります。「アカが納屋を倒しそうだよ」
雑種でした。猟犬の血が混じっていたのでしょうか、つながれていた納屋の柱の根元をいつもさんざん掘り返し、ついに納屋が倒れそうになったことがありました。しかしこの思い出は犬のことより、納屋という場所に記憶の焦点がずれていきます。昔そこは我が家の台所でもあり、薪、炭などの燃料置き場でもあり、冬の野菜が埋められ、大根や白菜の漬物、梅干、焼酎で渋柿のあく抜きをする大甕が並んでいたところ・・・甕で忘れてはいけないのが水がめ。井戸水を汲むのは子供の仕事でもありました。家の中ではなく外にそのような場所があったのは、半世紀前の地方の住空間として、平均的なものだったと思うのですが?

シロでもブチでもなかったからアカというあまり素敵ではない名前が付いた我が家の犬は、昼間は納屋の横の陽だまりに、夜は納屋の中にと、穴掘りしている柱を中心に納屋の周りが居場所で、その納屋と母屋の間を見知らぬ人間が通ろうものなら、けたたましくほえていましたから泥棒は怖かったでしょう、立派に番犬として役に立っていました。

納屋の土間では正月の餅搗きもおこなわれていましたが、そんな時アカはどうしていたっけ?家中に水道が引かれて台所が家の中に入り、女性達が薄暗い火の気のない納屋で朝から竈の火をおこしご飯を炊くこともなくなり、いつの間にか餅搗きも消えました。その頃のアカはだいぶ年取って、誰が通ってももうあまりほえなくなり、納屋のような台所が取り壊されると、庭の奥に本物の小さな納屋が建ち、ついでに犬小屋も出来ました。アカはその中で家族から忘れられてしまうほど、静かに暮らしていました。





半世紀の時間は世界中でペットの扱いが変化するのに十分な時間だったと思うので、ドイツの犬の地位が特別だとは思いません。人間も靴のままで家の中に入り込む住まい方は、犬も一緒にくっ付いて家の中で暮らすのが普通で犬小屋はなく、住まいの一角に専用スペースを与えられます。そのようにこの家にもアッペンツェラー犬が住み、現在のメクスレは三代目です。



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私の陶芸の仕事が出来るようにと大家さんが2階に上って、私が下に移るという、住居の交換をしてこの部屋に住み始めたとき、台所と食堂の仕切りカウンターには細長い絵が残されていました。この家に居る犬の種類を聞いた時、大家さんからその絵の中にアッペンツェラー犬が登場していることと、そして何の情景が描かれているのかを説明してもらいました。

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アッペンツェラーはスイスにあるアルプスのふもとの地域をさす言葉。そこでは春から秋にかけて、チーズ職人が山にこもってチーズを作るという風習が700年も続いているとか。だからアッペンツェラーはチーズの種類としても覚えられています。この長い絵は秋に職人達が出来たチーズを荷馬車に積んで山から下りてくる情景を描いています。(このチーズ試したことがありましたが、複雑な香料の香りが強く、私は不得手でした。)




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牛や山羊の番犬をするアッペンツェラー犬登場。職人や番犬が山で生活するうちに、子犬が産まれるとこの種の犬を欲しがっている家に、山からいつ降りるか連絡がきます。大家さんの家族も4年前そんな山からのお手紙を見て約束の日に5時間車で走っていき、麓で子犬を待っていました。(一代目が来た時はまだこの家はなかったかもしれません。)



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雄牛はこんな大きな鈴をつけています。それから絵の中に職人達が6人登場しますが、全員パイプを持っています。3人は背中にチーズつくりに使うらしい木の桶を背負っています。



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山羊の雄にもそれなりに大きな鈴が付いています。
この絵を描いたのはアッペンツェラーの風物を描いている、いわゆる農民画家と言われる人です。他にもその地方の季節と生活を記した絵が残されているそうです。この家にアッペンツェラー犬がすむようになったのは、大家さんとその農民画家さんのコンタクトが初めにあったようです。

音楽学校で学んだ直後に第2次大戦でロシア前線へ従軍した大家さんは、そこで目にしたロシアイコンや東欧(ルーマニア)のガラス絵イコンに魅せられ、戦後自分でもガラス絵を描きはじめ、次第に民衆の信仰と共に発生した装飾のあり方を幅広く調べ、それは大家さんの独特な認識としてエスカレートし、町の博物館と対立して自分でカタログを作ったり・・・人生の趣味として以上の熱意で、常に何かを見に行ったり、自分で作ってみたりを継続していました。以前は玄関先に黒い森地帯の地図が架けてあって、3種類の色違いのピンが何本も差し込まれていました。この地域の路上に立っている十字架の在所を、木製、石製、金属製を区別して示すものでした。

民衆藝術には農家の人々が冬の間の楽しみに箪笥やベット、長持などに絵を描いてしまったことも、ある時代の風習としてありました。そこから農民画家という専門的に絵を描く人たちが発生します。そのときに流行った陶器の絵柄と家具の絵柄が同じだったりします。話は飛んでカンディンスキーはもちろんアカデミックな画家ですが、彼も家具や家の壁、階段に絵を描いてしまうし、ロシアイコンを連想させるガラス絵を描いています。ロシアイコンやガラス絵イコンの発生や発達の経緯について知らないし、私の想像ですがイコンには大家さんが生活の中にある創作へと向っていく強力な力があったようです。




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そしてこのワンちゃんがこの家三代目のアッペンツェラー犬、メクスレ。恥ずかしそうにしています。そうか首輪が普段着だからね。

日本の東北地方の住まい方と共にいたアカの生活も、その時代のこととして決して悪いものではなかったのかな。
Commented by M野 at 2008-12-04 22:04 x
 やはり大家さんは面白い人ですね。
 犬より絵に目が行きます。マンガのクッキングパパの荒岩さんみたいな人たちが出てきますが、微妙に役割や仕事が見えそうでとても面白いです。大人はたばこを吸っていて、パイプの形をかえているのも面白いところです。チーズ作りの道具なんかじっくりみてしまいました。そこによりそう犬種も、いまもいる。
 生活ですよね。歴史も。
 ところでカウンターの上はクリスマスでしょうか。
Commented by うお at 2008-12-05 06:54 x
M野さん
この絵、犬の毛の色を比較してみても、かなり正確に描写しているようですね。それで私も職人頭とその息子、雇われ職人とか想像しちゃいます。

紙巻煙草を手に仕事できない職人世界で、パイプが愛用されていたようです。轆轤師ももちろん。日本では煙管でしょうか。どんなパイプを愛用しているかが、職人の自己主張に一役買ったようで、特に自慢できたのはイタリア産の木(名前はわからない)で作ったパイプ頭に飾りチェーンでつなげられた象牙の吸い口だそうです。
本当にこの素朴な絵の中から色々な生活が見えてきます。

はいクリスマスです。私のお気に入りでカウンターの上はオールシーズンクリスマスさせてます。
Commented by tomato at 2008-12-06 08:55 x
中学校以来、私の生活にはいつも犬がいました。
ですから、犬を想う気持ちは特別です。
善福寺の家の犬はドイツ原産のポメラニアンで、
座敷犬ですから家のなかで大きな顔をしています・・・・

この絵、素朴で当時の様子が良く出ていてイイですね。
確かに牛の鈴はちょっと大き過ぎますね。
チーズも好きだから、この絵はやっぱり買いですね・・・・

カメラのレンズ嫌がる犬、多いです。
何か分かるのでしょうか。
大きなお目々が嫌なのかなあ・・・・
Commented by うお at 2008-12-08 07:12 x
言葉がわからないだけに、想像の世界で友好的に付き合う動物たちは、本当はどうなんだろうと思っていたら、私の知り合いの犬(ポメちゃんだったと思う)は鏡や窓に映る自分の姿を見たがらないそうです。わんこちゃんもその気で付き合ってくれるのかと、思いました。

この絵、買いですかありがとうございます。Tomatoさんご予約済み!牛の鈴の大きさ本気でちょっと確認とって見ようと思います。こちらのチーズ文化ではデザートチーズというのに、恐れ入ってしまいます。お腹一杯でもまだ美味しいと思ってかじってしまうチーズをどうやって探してくるのか謎です。土曜日の市場にでるチーズ屋さんで、大体一人、3,4種は買っています。日本人が漬物や佃煮を買う感覚でしょうか。

そうか犬はレンズがわかるのね。猫は『な~に?これ』って、覗き込んできますが、犬はシャイな人と同じような目線のずらし方なのね。ポメちゃんにこんど宜しくお伝えください。
by kokouozumi | 2008-12-03 08:14 | Comments(4)

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