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黒い森の中にひそむ

海辺育ちの私・・といっても海鳴り、潮の香り、秋刀魚、鰹、一体どれだけが体内に染み付いているものなのか怪しいものです。それが今は黒い森山岳地帯にいます。
・・といっても町の中にいる限りぼんやりしていれば、山岳地帯の盆地に開けた町での生活という意識は特にありません。いつか雨の日、街中を縦断する運河が急流となって、ここは山の麓から斜面となっている土地なんだと思い出したものです。。


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さすがに漁師の話は聞きません。残念ながら樵とお友達になる機会もこれまでありませんでしたが、環境都市フライブルクということで、環境を守る立場の人、森の管理人とお話したことがありました。彼らは森林レンジャーと呼ばれています。しかし森の中には仕事の掟があるらしく彼らが実際に木を切り倒したり作業をすることはありません。じゃあ何をするのかと聞いたら「森の中の光と影を見る」という返事がかっこよかった。森の中に差し込む光の具合から伐採すべき場所を判断したり、酸性雨での木の被害を調べたりする国家試験を受けた公務員です。西ドイツは約70%が国有および公有林なので、レンジャー隊の管理地域はかなり広がっているようです。それにこの町にきてまず驚かされたのは克明な山脈の地図があったことです。森から森へと整備された林道が通り、道路わきに積み上げられた伐採された木材の番号など、注意するといたるところに森林管理人の印が見られます。レンジャーの制服は緑の上下に緑の長靴、緑の帽子、冬のコートも長い深緑。階級によって肩章にどんぐりが一つ、三つと付くらしい。催しがあるとヤークトホルンが登場する。

レンジャーの話を聞いていると、いつの間にかグリム童話の世界に入ってしまう。

山の中にいってみよう。


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出発



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座る場所もあります。「乗車券ください。おいくら」 「どんぐり3個でございます。」
これじゃ宮沢賢治だ!




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私がヘンゼルとグレーテルの話が好きだったのは挿絵のため。毎月届くキンダーブックの挿絵は様々なタイプがあり、この物語の時はとても克明な描写の挿絵でしたから、一ヶ月飽きずに眺めてはいろいろな発見をしました。挿絵の情景を子供の心は信じきっていました。紫赤の大粒のさくらんぼに心から驚いたりしたものです。「山形産とは違うぞ」アメリカンサクランボが出まわるようになったのはそれからずっとずっと後のことです。今フライブルクの街中から10分も行くといつの間にか山の林道を歩いていることになるのですが、ヘンゼルとグレーテルが迷い込んだような暗い世界の印象はありません。グリム以前にはガラス職人達が秘密の技法とともに隠れ住んだ黒い森でしたが、そんなガラス製品も博物館で僅かに見るだけです。博物館には一番目の写真のようなガラス工房の絵もあります。『黒い森の南16世紀中頃』ガラス製造に詳しい人はこの絵の中に色々発見して楽しいと思います。職人はそのころ裸足で働いていたのですね。




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ここはカンデルンという南シュバルツヴァルト(黒い森)にひそむ町。昔の農家をギャラリーにしています。この壁よく残っていたものです。これは壁紙ではなく、壁に直接塗られた模様です。型紙を使ったのでしょうか。





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訪れたときの展覧会は騙し絵の作品でした。若い画家のようですが、デュラーのような精密描写から大胆な荒いタッチに作風が変化して、その荒いタッチの中に色々の形が隠されていました。








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『黒い森』の名は緻密に生い茂る針葉樹林の黒々とした色を想像させますが、この名前がついた昔は木の種類が違っていたそうです。黒はむしろ人外境、暗黒大陸の意味を含んでいるとか。「中世ヨーロッパの森は緑の海だった」(堀米庸三)という表現もあります。
Commented by tomato at 2008-10-13 22:32 x
緑の海・・・・なんて素敵な言葉でしょう。
シュバルツヴァルトもイメージが膨らみます。
森の奥底にいる魔法使いの御婆さん。
見てはいけないもの、会ってはいけないものへの畏怖の念。
否応なく、想像力が深まります・・・・

私は自然が好きではあるものの、
ある程度の便利さが同居していないと住むのは難しい。
だから仙台は私にとっては理想郷です。

森林レンジャー、会ってみたいですね。
アメリカの国立公園のレンジャーも素敵です。
彼らは仕事に誇りをもち、観光客からも尊敬されています。
ペコペコするだけが仕事ではありませんね・・・・
Commented by うお at 2008-10-14 08:28 x
Tomatoさん
日本は山(森)が背骨になっていて、人間はその麓から本物の海に向って住んでいる感がありますが、ヨーロッパの森は比較的平地の人間集落を島のように分断して位置している・・それで発生する森の概念ってどんなかなと思いながら書いてみました。コメントありがとうございます。

森の都といわれる仙台。宮城県人である私ははっきりした印象がなくて残念です。Tomatoさんのページが楽しみです。

アメリカのジャイアントセコイアの話、それを守る人々について聞いたことがあります。森林レンジャーも一般市民から慕われているようです。森と人々の仲立ちをしているからかな。
Commented by tarutaru at 2008-10-16 18:38 x
信州は、ヨーロッパの黒い森のスケールとは比べものにはなりませんが
海がないぶん、似ているところがあるかもしれません。
もっとも屏風のように山がすぐ迫っているので森という感覚は意外にないですけどね。

深い森、黒い森・・・に出てくるとしたら。日本じゃ「やまんば」だけどヨーロッパは「魔法使いの婆さん」ですねえ。女性は婆さんになると意地悪なイメージが強くなるのかなあ。あはは
富士山麓の青樹ケ原の樹海も緑の「海」だけど海ならぬ・・・ゴミの山だと聞いています。当局はいたちごっこで大変みたいですよ。

Commented by うお at 2008-10-17 05:31 x
Taruさん、以前棚田の写真に、信州の様子を垣間見させてもらいました。「やまんば」いましたか?「やまんば」や「魔法使いの婆さん」を意地悪と感じるのは中世以来の伝統的感覚ですね。いひひ。うおばばあ は宮崎駿の描く元気なばあちゃんを推薦します。

テクニックの進歩には万人が向っていくのに、公共道徳は乗り遅れてもいいと思う人が多いのかしら。
Commented by M野 at 2008-10-17 19:18 x
 すごい色大理石のストーブですね。この農家は森の中で、いったい何を作っていたんでしょうか。
 岩手は信州の森のスケールとは比べ物になりませんが、日本のチベットと言われたくらいに、どんな山奥でも人が住んでいる不思議な山です。北上産地の99%が二次林で、山頂の多くは開けた放牧地が多いです。なのでやまんばはいっぱいいます。早池峰山のふもとの電気のない所に住んでいたおばあさんなんか有名です。なので当方の名物は遠野物語の山男なのですが、さすがに明治で絶滅した様です。
 なお遠野の猿は、人に向かって石を投げると、物語にありますが、五年前友人が本当に投げられまして、伝統は活きている様です。
Commented by うお at 2008-10-18 04:22 x
M野さん
このストーブ下の漆喰は多分新しい補修部分で、昔は其の部分はL字に張り出したベンチになっていたはずです。この農家が何を作っていたのか分からないですが、カンデルン村には国と自治体両方の営林署があったので、林業従事者が多かったところでしょう。

信州に続いて、北上、早池峰山が出てきましたね。遠野に何度か行きながらこの山までなかなかたどり着けないのです。山男は絶滅してもやまんばは残っていますか。きっとTaruさんやM野さんは子供の頃「やまんばに連れて行かれますよ」といわれながら育ったのでしょうね。私の場合は天狗でした。「泣く子は天狗に連れて行かれますよ」といわれると好奇心旺盛の私は窓の下に踏み台を持っていって、天狗が山から下りてくるのを見張っていました。

あはは、石投げの技は北上の猿達にどうやって受け継がれたのでしょうね。
by kokouozumi | 2008-10-12 06:18 | 美術 | Comments(6)

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