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ランブレヒトさんがひょこりこの家のテラスに現れると、ついにその日がきたかと思います。時計を一時間進めたり、遅らせたりするのが、時間の季節変わりだとしたら、ランブレヒトさんの登場は温度の夏・冬入れ替えです。
彼はこの家の水周り担当で、晩秋の登場は、いよいよ今晩から外気がマイナスになるということです。外水道の元栓を締めたり、開けたりするのは、誰にでもできることですが、毎年ひょっこり彼が現れ、栓を締めたら、もう翌年の春、又彼が開けに来るまで、誰も触りません。

陶芸の仕事場の外にある水道は、私の使用頻度が最も高いわけで、「今日は暖かい」と、開けたり締めたりしているうちに、肝心な時閉め忘れて、水道管破裂の事態が起こる・・・自分の性格上大いにその心配あります。その点、ランブレヒトさんの決定は非常に有効な手段です。それに何か起こったら、一番苦労するのは、水周り担当のランブレヒトさん本人です。

この家は1966年に建設がはじまって、1971年に完成していることが、入り口の石に刻まれています。日本の感覚からしたら、とても長い建築期間ですが、特別に大きな屋敷という訳ではありません。当時この辺はフライブルク市にまだ合併していなかった自治体の管轄、この家の後からフライブルク市だったので、排水がそちらに流れないよう敷地の土盛りや基礎工事に相当の時間を要したと聞きます。フライブルク市との境界部分には土止めのコンクリート壁を利用し、其処から垂直に伸びる補強壁の役割にもなる、防空壕のような地下の物置が作られいます。その事情を知らず、一度その上の地面に水をまいたら、一層の砂利が水で飛び散り、下にレンガの地下天井が現れ、びっくりしました。土盛りに使う、土や瓦礫が足りなくなっての解決策かもしれません。この家には悪条件を克服したというか、利用スペースにしてしまったところが色々あるようです。

おおよそ1,5m低いフライブルク側は、貸し農園になっています。フライブルク市が緑化政策をかねて、庭を持たない人々に提供している農園の一区域です(市内7箇所に約260の農園がある)。貸し農園には水道設備があっても電気はひかれていません。日没以後は庭に留まれない、規則があるようです。この家の大家さんは、電源を提供し、農園の人たちが自由に出入りする階段もあります。ランブレヒトさんは、丁度この家の真下の庭を借りていて、その階段をよく登ってきます。大家さんの提供する電源を使って、ある貸し農園の持ち主は、落ち葉を電気掃除機できれいにしたという、笑い話もあります。数年前、その人が老いて車椅子に座るようになった時、電源は大工仕事に大いに役立ち、貸し農園の隣人達が、その人の庭に屋根付きテラスを作りました。彼は今までどおり、暖かな日は、庭を眺めているようになりました。

創作好きの大家さんが、自分で装飾を施した個所が、家の中にも多々あります。私が土を練っている机のちょうど真上、天井の梁には、文字を刻んだプレートが取り付けられています。土練りの手を休めて、ぼんやりその文字を眺めることがよくあります。難しい言葉ではありません。「もしこの家が、世の終わりまで建っているとしたら、つかの間のことではなく、永遠であって欲しい」と、いうような意味です。始めはこの家が長持ちするようにってことね。とあっさり受け止めていました。毎日眺めていると、時々その意味合いが違って感じられることがあります。世の終わりがつかの間に訪れることではなく、平和な世の中が永遠であって欲しい・・。第二次大戦を知っている大家さんは、戦争を知らない私のような世代の人間より、世の中が平和で、安心して家に住めることを、切実に願ったのかもしれないと、思ったり。

8年前、私がこの家に住み始めた頃より、年々歳取っていくこの家の住人、そしてランブレヒトさん。この家が建ち続けていても、やがて住む人や住まい方が変化するのかもしれないと、最近は思います。
外水道の元栓を誰が締めるかという約束事は、この家を建てた人と、その周りの人間関係が、ささやかな秩序を持った営みとして、メッセージが取り付けられた頃から、続いている習慣かもしれません。

感覚という、方丈の棲家の中からしか、私はこの家を捉えることが出来ないのですが、この家の登場人物たちは今、穏やかに、冬に向かっているようです。


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Commented by 桃太郎 at 2007-11-15 20:10 x
こんにちは 初めてお邪魔します。

tarutaruさんとこで 女性に向かってイチロー氏と男性名詞で呼びかけてしまい、申し訳有りませんでした。

11月で外気温がマイナスですか。
正直、僕にはドイツの冬は体がもたなさそうに思います。
すでに日本の冬でもちょっと厳しいかもしれないです。

また来させて下さい。
Commented by M野 at 2007-11-15 22:00 x
 盛岡もそろそろようやく、氷点下になりそうです。温暖化でしょうか、例年より一月遅い感じです。
 夏の35度から冬のー15度まで、季節を使って身体を調整してますが、今年は寒さに慣すソフトランディングがうまくいきそうです。
Commented by kokouozumi at 2007-11-16 07:46
桃太郎さん。いつも、作品は男っぽい、やるこっとは荒っぽいといわれつづけていますから、イチローの名は全く違和感、不信感なしでした。大丈夫ですよ!イチローなんてしかしかっこよすぎます。

Tarutaruさんの仲間は、みなさん話し上手で社交的で、私もすっかりくつろいでいます。

ドイツは外気がマイナス10℃になったり、聞くとすごそうですが、室内の生活空間は快適です。日本の冬は部屋から部屋の移動に勇気がいる、むしろ厳しいですね。

香港レポートも楽しませていただいてます。今度お邪魔しますね。
Commented by kokouozumi at 2007-11-16 07:57
M野さん、盛岡がまだ零度になっていないの?なんだか日本の冬を忘れているようです。えっ!

>夏の35度から冬のー15度まで、季節を使って身体を調整してますが

これって、一年中、Tシャツ一枚でも大丈夫なように、調整しているってことですか?さすが青森の人は違いますね。そー言う私もガキの頃は年中スカートに素足でした。担任の先生から「みてるだけで震えてくるから、靴下はいてちょーだい」と、よく言われました。今は私がそー言う番です。いったいあの、子供の時の元気は何だったのでしょうね。
Commented by M野 at 2007-11-16 21:17 x
 さすがにTシャツは無いですね。着膨れています。それでも室温が5度を切るとヤバイですよ。キーボードが打てなくなっちゃう。
 今日初雪でした。
Commented by kokouozumi at 2007-11-18 06:46

壮絶!
>室温が5度を切るとヤバイですよ。キーボードが打てなくなっちゃう。

私の部屋にはエコ温度計というのがあって、室温36度から14度までが自動表示されます。20度が室温として最適。18度でも我慢すると、12%の省エネ。16度は24%省エネ。14度、夜は暖房を切りましょう・・・
室温が22度ぐらいから、暖房をつけてしまうのが、これまでの習慣的な温度感覚みたいで、そのとき室温を確認すると、確かにここで暖房を入れるのは寒がりだは!と、頭で考えられます。この温度計なかなか優れものです。

しかし室温5度は、ほぼ外気の環境ですね。さすが岩手、環境大賞物ですが、囲炉裏の一つも欲しいところですね。









Commented by tarutaru at 2007-11-19 18:13 x
>









確かに誰もが願うことですね。ちょっと仕事で挫折してじたばたしています。また来ますが。桃さんも来てくれましたね。
Commented by kokouozumi at 2007-11-20 08:05
あ~ん、Tarutaruさん
窯、300度オバーヒートの免停ですか?
縦書きコメントのいたずらをするところを見ると、創意は元気そうですね。
じたばたの後がたのしみだぞ~!!
Commented by kokouozumi at 2007-11-20 08:08
あ~、それと、Taru!
コメントの間の空間はどうやって作ったんだ?やられた!
駄々子だね¥、全く。
Commented by tarutaru at 2007-11-20 14:34 x
>やられた!
kokouozumiさんに聞いてください!
たぶん彼女の投稿の際に作られた、無意識かな?、スペースだと思いますよ。うお様あなたはおもしろいお方だ。全く!
Commented by kokouozumi at 2007-11-20 17:14
そうか、kokouozumの仕業か。うおは間抜けですね、全く。
こちらでは、器商売の私と館太氏もじたばたしています。作るものの質云々以上に、時間や窯の回数を計算したり、、。
商売の体制なんて、全然整っていないのですが、同級生の結束力で無理やりやっています。Taruさんのことも噂しながらね。
Commented by tarutaru at 2007-11-20 18:41 x
>うおは間抜けですね、全く。

全くだ!

>時間や窯の回数を計算したり、、。

まだ余裕あるね。計算が成り立つうちはね。だいたい陶芸なんて計算が合わない世界だから良くも悪くも最後はなんとなく帳尻があってしまう、というか合わせてしまう、やくざな世界。お~こわっ

Commented by kokouozumi at 2007-11-21 06:14
計算といってもね。
電卓で3回足し算をして、3回とも違う答えを出す特技を持つ、計算の上手なうおですから、素焼き、本焼き、素焼き、本焼き、、と呟いているだけです。
それだけでも、頭が一杯で、生活は上の空。この間も、包丁切れないは!と思いながら、バターナイフで一生懸命玉葱刻んでいた。

良くも悪くも最後の窯は、こわ~い博打です。
Commented by 寛太 at 2007-11-21 08:14 x
>館太氏もじたばたしています
いつからわしゃ寒太になったんじゃ
燗太 観太 巻太 癇太 肝太 幹太 棺太 閑太 うーーんなかなかやくざっぽい かんた 見つかんない
半と出るか 丁と出るか 
壷じゃない 窯 開けてみるまでわかんないじゃーーん
やっぱし やくざな商売だ
Commented by glueck-ss at 2007-11-22 03:32
へえ~、あそこはフライブルク市との境界部分だったのですか。
Koko先生宅の由緒を知り、次回のお教室もしくは飲み会では
歴史をもっと感じてお邪魔させて頂けますね。

↑寛太さん、壊れていますね・・・・・
Commented by kokouozumi at 2007-11-22 07:21
かんた んでは無かったですね。
名前を修正する前に、サイズ修正が来ましたね。昨日のハードワークを終えて、気分良かったのですが。ここで不機嫌にならず、たんたんとこなしてみます。
Commented by kokouozumi at 2007-11-22 07:33
glueckさん。
昔ここは、レーヘン村だったのです。私がここに引っ越してきた時、大家さんはレーヘンの役場に住所変更届出しなさいといい、私はフライブルク市の市民課で済ませたと、説明しても納得しない様子でした。かつて境界があった話を聞いて、今度は私が納得。それだけ苦労して建設したら、フライブルクと違う自治体に住んでいる意識が残るのね。
Commented by 河西文彦 at 2008-01-22 13:34 x
雲の写真良いですね!今イギリスで ベストセラーになった、「雲」の本日本でも 翻訳されたそうです。クラウドウオッチャーって言うのですかね、暇があったら読んでみて!自然を 支配しようとする話!!河西
Commented by うお at 2008-01-24 07:42 x
あれれ!河西さん
半日前にご返事書いたつもりが、消えてる!どこ間違えたかな?
イギリスでベストセラーの「雲」という本。2月に日本へ帰ったら探してみますね。空の写真が一杯?それとも?本屋さんで探す本があるって、それだけで、楽しみです。
Commented by 河西文彦 at 2008-01-30 05:31 x
時々 オイラー 見てまっせ。いつ日本へ?本屋より 「ブックオフ」
を探してみて、安いんだって!! 本屋さん ごめん!
by kokouozumi | 2007-11-15 05:53 | Comments(20)

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