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身近にもいたマイスター ! その2

日常の中で、いつも居る空間の中で、長い間動かずにあるものが、わりあい多くないですか。食卓の果物皿、テレビの上の拾ってきた石とか。時々それらをふわっと持ち上げて、又元に戻すと空気が変わるような感じがすると、独逸人の御婦人が言いました。「そんな恐ろしいこと、私はしたくない。埃が舞って、いよいよ掃除するしかない覚悟に持ち込まれるもの。」掃除好きの独逸人女性とは室内環境が違う。。。
ピルミンは、私が工房に闖入し、写真など取ったりしたら、空気が動いたといいます。ピルミンがブログに登場した翌週、彼の最後の作だったチェロが売れたという。最後の?

そして今日、日本から20年ぶりのお客様がやって来た。ピルミンと彼はロンドンのオークションで出会い、一緒に東欧やイタリア、それに日本も旅したことがあったのだそうです。その人とピルミンの会話でミッテンヴァルダー学校のことがさらによくわかりました。同級は5人ぐらい、3年から3年半の教育期間だから、全学年で15人という規模だったそうです。当時東側、ドレスデンのそばに2校、シェンバッハとアルテン・キルヒハイムという町にもバイオリン職人学校がありましたが、ミッテンヴァルダーがドイツ西側では唯一の学校だったということ。東西で、こっちのほうが腕が良いと、職人に付物の競争心があったということなど。

M氏の持ってきたトランクはずっしり重い。ブダペストやドレスデンを回って、既に木材部品を調達したらしいです。肩にかけているショルダーバックにはバイオリンが一丁入っていました。トランクに入れると、飛行機の中で湿気を吸うので、日本までこのまま持っていくのだそうです。散歩がてら、近くのホテルまで案内する時、彼は脚を引きずっていました。バイオリンに関わる場所は不便なところが多かった?重い荷物を持って、相当歩き廻ったようです。

道すがら「ピルミンは良い木を持っている。」と、「・・・」
ホテルにつくと、首をかしげている私に、フロント横の戸棚の板を示して、「ほら、ここの黒くなっている部分、これは木が死んでいる..病気の部分ですよ。」と、「ストラディバリウスがすごいのは使っている木が生きていて、音を響かせるのです。」と、いきなり専門的なことを話し始めました。
ストラディバリが住んでいた、南イタリアの町は、南の暖かい気候にくわえて、北からの良い風で育った健康な樹があったそうです。「それに美味しい食べ物もありました。」美味しい食べ物がバイオリンとなぜ関係するのか?健康な樹が育つには「土壌」も影響するから、多分そうに違いないと、納得することにしました。アントニオ・ストラディバリは、その土地で育った300年も古い木を使ったそうです。二人の息子の時代には、その良い木がもうなくなる事を知っていた彼は、息子達に木を斜めに切って使うことを、教えておいたそうです。「そうすると木が柔らかくなるのです。」「・・・?」
現代の伝統的なバイオリン工房、アメリカのウリッツァー、ドイツのハマーも200年ぐらいの古い木を使っていたそうです。ピルミンは卒業後、そのハマーに勤め、其処が製造を止めてしまったとき、その良い木を買い取ったのだそうです。その木は私も見たことがありましたが、知らなかった~。

ピルミンが作った最後のチェロが売れたということは、(・・私はもう作らないの?と、聞けなかったのですが、)もう作りたい木がないということかと、
最後のチェロという意味がわかったような気がしました。

M氏はさらに講義を続けています。東欧にもバイオリン作りの伝統があるのは、良い樹の生育地が、南イタリアから、其処まで帯状に延びているからなのだそうです。「それって、磁器土の鉱脈が中国から韓国、日本・九州に延びているのと似てる。美味しい食べ物!良い窯元のそばには、松茸が取れた!」(赤松に関わるのですが)家に戻りながら、やっぱり自分の土俵に比較検討する私でした。

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ピルミンの展示室
Commented by M野 at 2007-10-19 20:11 x
 松茸の菌は、他の菌が少ない貧しい土に生えている赤松に寄生します。しかし、落ち葉で土が肥えてきて、松茸は他の菌に駆逐されていきます。
 窯元がある土地は農業に利用しにくい土地が多いと思います。その上で、燃料の赤松を近隣で確保するために山の手入れが必要になり、松茸が生える山が出来るのでしょう。特に松茸の生えやすいのが60年の木と言う言い伝えと、燃料で最適なのは60年の赤松というのが妙に一致してます。
 また燃料として松葉は昔よく使われたものなのですが、窯元の周りでは更に使われていたのではないでしょうか。なにしろ薪は貴重ですから。こういった人間生活が自然に影響を与え、それでそこの環境が維持されている例は、よくあります。
 うまい食べ物がある土地は、基本的に豊かです。特に保存食の発展している地域はうまい食い物があります。結果経済的にも豊かです。これを左右するのは、降水量が大きいです。バイオリンの件ではその可能性が大きいと思います。
 一般に人間の経済活動があって職人がいると都会的に考えられますが、自然があって人間が暮らしてゆく中で職人が分立してゆく、長い歴史があるわけで。ピルミンの話題は、考えさせてくれました。
Commented by tarutaru at 2007-10-20 11:33 x
荘厳な気持ちにさせられました。
だけどそんな理想的な環境の中でうまれた楽器の音色を聴く僕ら自身の「耳」せめて
>時々それらをふわっと持ち上げて、又元に戻すと空気が変わるような感じがすると

耳掃除ぐらいはしておかないと撥が当たりますね。
Commented by kokouozumi at 2007-10-20 15:47
M野さん
松茸と60年もの赤松の関係は知りませんでした。自然の摂理って、聞けば聞くほど面白いですね。
ストラディで樫本大伸が演奏すると、すごい人数の聴衆がやって来る!今度ロンドンのオークションで何億だかのストラディが出るらしい、イギリスは国外に出てしまわないように、と根回しに必死!
そんな、華やかな話題が尽きないバイオリンですが、ストラディバリという人間がやったことは、やっぱり職人としての条件を確認できた。それは、その土地にいたから、その土地を良く知っていたからということがとても重要な要素だった。。。。三橋さんからきいたお話はその意味で、とてもわかりやすかったです。
Commented by kokouozumi at 2007-10-20 16:05
Taru さん
おいらは五感の共通性を、人体の仕組みとして解説できないけど、耳は目のよさに共通するかも知れないですね。Taruさんはニコンで相当鍛えてますね。

窯を時々、ふわっと持ち上げて見たくなった場合は、くれぐれもぎっくり腰に気をつけて。
by kokouozumi | 2007-10-19 03:39 | 人々 | Comments(4)

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by kokouozumi