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キンダーランドとコルチャック先生 最終メモ







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*子供にもお金が必要、大人と同じように子供にもお金が必要だが、でも違うことのために・・・*(*は本からの抜粋)


ジャックは2台の自転車を購入していた。一台では校内での練習用にしかならないが、2台なら、乗れるようになった子が2人一緒に、休日のサイクリングを楽しむことが出来るから。その思惑通り、早速遠乗りに出た二人は、駅の駐輪場に止めた自転車を2台ともそっくり盗まれてしまった。

警察に届けてから2週間がたっても、自転車は見つからない。
1台の自転車はまだ支払いが終わっていなかったので、ジャックの購買部は9ドルの負債を抱えてしまった。ジャックは恐ろしい夢を見た。ネリーのお母さんが悲しそうな顔でネリーに『今日は食べるものが無いのよ。お金が戻ってこないから』と言っている。自転車の分割払いの期限を守るために、ネリーのお母さんから50セント借りていた。それからタフト氏が寝たきりのお母さんに『ジャックが破産したからもうコーヒーは買えない』と言っている。自転車屋のフェイ氏がジャックの家にやってきて『ジャックの宝箱はどこにある。お金が払えなければそれを持っていく』と・・・。
ジャックは朝起きるとすぐ、鏡で自分の髪が白髪になっていないかチェックした。ある本に、船長は嵐の一晩を過ごすと髪が真っ白になっていたと、読んだから、自分も絶対白髪になるはずだと。

しかし実際のみんなは優しかった。
タフト氏は購買部の在庫品、スケート靴3足、サッカーボール2個、小刀、ノートなどを処分すれば、5ドル近くになると、見積もった。自転車屋のフェイ氏はこのような事件のために自分が損をすることは初めてではないといい、さらにネリーのお母さんにまず返しなさいと50セントを貸してくれた。ネリーは数ヶ月前に父親を亡くしていること、ネリーのお母さんは遺族年金から50セントを捻出したことをファイ氏は知っているからだ。ジャックはクラスのみんなと相談して、在庫処分セールをすることに決めた。真っ先にやって来たのは7年生購買部担当の子だった。『だから子供の遊びではないと言っただろう』と2ドルの買い物をした。しかし彼のその買い物に、7年生のみんなから非難が集中した。7年生の購買部はこの1年間クラスのために、何もこれといった活動をしていないのに、下級生の災難に乗じて買い込んだスケート靴やサッカーボールは使いたくない、というわけだ。

ジャックたちはお金が必要だから返品されても困る。妥協案として、7年生のサッカーに3年生の上手なプレイヤーも混ぜてもらうことにした。学期末最後の週のことである。何人かの男の子達が7年生とサッカーをしている姿を、他の3年生たちは運動場の片隅でぼんやり眺めながら、ついこの間まで、次の学年でやるべきことの相談で休み時間を使っていたのにと思う。ジャックはすばらしい計画を立てていたのに。3年生の担任は、みんなのしょんぼりした様子が気がかりで、学年末の遠足を提案する。町を川辺まで行進して、そこから船に乗り、さらに対岸の丘を登って古い城跡まで行こう、という行程だ。ジャックは、行かないと言い出した。心配事のある子供は勉強に身が入らない。ジャックも先生から国語と歴史の追試験を言い渡されていた。そこでクラスメート全員が先生に嘆願する。ジャックは1年間僕達のために苦労してきた。その苦労に免じて、追試なしで彼を進級させてください。先生は承諾した。

夏休みになると、クラスメートは何処かしらに行ってしまった。ジャックはタフト氏のところで店番のアルバイトをすることになった。学校が休みの間はこの類の店を訪ねる客足が大分少なくなるので、ジャック一人でも店番が出来る。それよりも大事なのはタフト氏の寝たきりのお母さんが、いつコーヒーを飲みたがるか良く知っていることだ。タフト氏は新学期に備えて仕入れの仕事に専念できる。本当は自転車屋のフェイ氏からもジャックにアルバイトの誘いが来ていた。クラスで冗談ばかり言って毎日怒られているフィルが、その使い走りを引き受けることになった。フィルの言い分では、早く借金を返さないと、新学期になっても教室で冗談を連発できない。ジョークのない学校生活なんて意味が無い、ということだ。フィルはタフト氏やタフト氏のお母さんのことを知らないので、二人のバイト先はそのように決まった。

日曜日にジャックとフィルはよく一緒に散歩した。銀行の前まで来ると、フェイ氏の用事で自分はこの中に入ったことがあると、フィルが言う。ジャックはまだ銀行に入ったことが無い。銀行には商業銀行とか産業銀行などいろいろあって、商人や工場経営者はそこからお金を借りることが出来ると以前タフト氏から教えてもらったことを思い出した。その時ジャックは共同購買部でも銀行を併設しようと思ったものだ。クラスメートは今度お金を持ってくるからと言って、サッカーボールで遊び、自転車の練習をするが、結局そのまま払わないことが良くある。これからお金の無い子は銀行で借りればいいのだ、と考えた。しかし今は自分が銀行からお金を借りたいと思っている。子供銀行があればいいのに・・。

*Taft氏は笑わなかった。『子供のための銀行か。それはいいかもしれない。お金がまた戻ってくるまで、長い時間を待たなければならないから、そのような銀行は国が作るべきだ。』『誰が作ってもいいよ』『そうか、君にとってはどうでも良いが、一度税務署のことを話したのを覚えているか?大人は税金を払い、国は国民の面倒を見る。子供は国にとって購買者であると、多くの商店ではっきり証明できると思う。大抵の子供は振り向きざまに、後で来るからと言い、結局いつか欲しいものにお金を払ってくれる。』よし!とジャックは思った。『国が銀行を設立するには、何処が担当するの』『経済大臣に決まっている』

この会話は買い物客がやってきたので打ち切りになった。
大人は、子供が質問するまえにずいぶんそのことを考えている、ということを知らないし、大人の答えをそれからさらに検討することも知らない。*

ジャックの心は既に子供銀行設立のため、経済大臣へ手紙を書くことに向かっていた。

*経済大臣様
僕は国民学校4年生です。ジャック・フルトンという名前です。同級生は僕をクラスの共同購買部責任者に選びました。ここに監査委員会の議定書を同封します。それには僕がうまく経営したことが記されています。決算書も同封します。それによって私達の共同購買部が7学年とは違って、活動していることが伺えると思います。私は1年の間に多くの物を買い入れました。次の年には演劇とマンドリングループを立ち上げ、一台の幻灯機とカメラを購入したいです。僕はさらに自然科学の大会を催し、冬に使うソリを作るための木工所を設備したいのです。他にも遠足や娯楽の費用を考慮したいのです。サーカスや映画です。今年はネリーが一人だけ僕を手伝ってくれました。しかし次年度はバーナムがオーケストラを、フィルが演劇を、ハリーが博物館を、アダムが木工所を、というようにみんなが手伝ってくれます。

もし子供が銀行でお金を借りることが出来たら、それらのことが全部出来ます。しかし子供にはクレジットが適用されません。ですから、僕達は自転車を盗まれると破産しました。そのことで僕は殆ど白髪になりそうなほど、神経を痛めました。
それで僕はこの覚書を貴方に宛てて書いています。経済大臣様、貴方がそれによって子供銀行を設立してくださるようにと。子供は税金を払っていないのに、国は子供のために多くのお金を使っています。しかし僕達はいつか大人になって、小学生の時借りたお金を返すことが出来ます。それに僕達は税金を払うようになります。この子供銀行のクレジット無しでは、僕達の計画を実行することがとても難しいのです。なぜなら、親がいつ僕達にお金をくれるのか、全く予想できないからです。*



キンダーランドの始まりはコルチャック先生にあると、いつか聞いた一言を追いかけて、偶然にこの本を知り、読んでみた。キンダーランド、たとえばミニ・ミュンヘンというタイトルから、大人社会を雛形にして、子供が社会勉強をする場所、と私は思っていたが、そうではなかった。むしろ大人が、その中で展開している子供達の意識に、耳をそばだてる必要がありそうだ。子供達が独自の経済力を持った時、やりたいことは何なのか、本の中には、かなり細かいお金の計算とともにエピソードが展開していく。ジャックの購買部に対抗するブラックマーケットも発生するのだが、7年生が警告するように、それらはすべて子供の遊びなのかもしれない。

この本が最近出版された際には、実在のポーランド経済大臣が序言を書いているし、教育学者だったら、どのようにこの本を捉えるのかなど、専門家の意見も興味深いのだが、コルチャック研究の類は読んだことが無いので、わからない。

私に想像しえることは、コルチャック先生が子供の世界を大人がのぞけるような覗き穴を、この本に作っていること。それによって、垣間見た世界の中で小さなジャックのやりたかったことが、今もキンダーランドの中に残されているらしいということ。





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一山の氷が落ちていたら・・・遊べる・・・
by kokouozumi | 2015-02-09 06:28 | Comments(0)

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