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キンダーランドとコルチャック先生 その3





『小さなジャックの破産』
いやはや、とても面白い本、というよりすごい本を読んでしまった。

この物語では、ジャック・フルトンがアメリカに生まれ、そこで育ち、学校に行き、小学校3年生になってクラスの共同経営(購買部)の活動をはじめる、という経緯が語られている。この本が書かれたのは1924年、作者のコルチャックは資本主義の国では無いポーランドのワルシャワに住んでいたので、子供達の自由な発想を物語る舞台としてアメリカのことと、するしかなかったかもしれない。
1935年にドイツ語版が出版され、38年にはそのアメリカ的な内容ゆえに、禁止本のリストに載る。戦後1972年になってベルリンの出版社から、『みんなのために商うジャック』という違う名で再登場し、80年代後半に編集されたコルチャック全集の中では『小さなジャックの破産』のタイトルに戻っている。

220ページの中には、どのページにも興味深い話が詰まっていた。それをどのようにメモすればいいのか?実際に読んでいた時間より読後に悩んでいた時間のほうが長かった。

ジャックの両親は静かで誠実な人たちである。
ジャックの父は一年に一度彼の誕生日の日だけ、ワインを一瓶飲む。彼は、「月曜日から土曜日までは私の家族のためにあり、日曜日と祝日は神のためにあり、唯一私が生まれた日だけは、私のものである。」と考える。彼はさらに「私の財産の全ては私の手から生まれる。健康な手を持っている限り、家族はパンから石鹸にいたるすべてに恵まれ、空腹や不潔から遠ざかっていられるだろう。」思っている。しかし不況の時代のことで、父親もいつ失業するか分からない。ジャックはもうすぐ国民学校の3年生に進級する。3年生になったら必要な教材について先生がリストを発表している時、ジャックも他のクラスメート同様に、果たして親がそれらのすべてを購入できるだろうかと、ぼんやりしてしまう。



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タバコ代を節約して約束した小刀を買いに行く父親とジャック


ジャックには母方に商人の祖父がいる。その祖父から、学用品を買う足しにと1ドルが送られてきた。ジャックの父親は祖父に母との結婚を反対された男である。彼は、「学用品は自分が買うから、1ドルはジャックが好きなように使いなさい」と宣言する。その1ドルをどの様に使おうか?というところからこの物語は経営の話に展開する。まずみんながやりたがらない図書委員になって、クラスの図書に1ドルを投資し、面白い本を揃えることにした。今集まっているのは、みんなが読みたくないから学校に寄付するしかなかったような本ばかりだ、と指摘したのは授業中にいつも冗談を言って、毎日のように先生に怒られ、立たされている子。そのアドヴァイスから、クラスメートみんなに読みたい本のリサーチをして新しく買い揃えたのが効果を奏し、クラス中が急に本好きとなり、喜んだ先生はジャックの1ドルのことを知り、みんなに本代のカンパを促した。戻ってきたお金を元にジャックが次に考えたのが、クラスの共同購買部だった。それは7年生が既にやっていることでジャックはその担当者に会いに行くと、子供の遊びではないと、冷たくあしらわれてしまう。しかし担任の先生は校長先生と相談した結果、二人でやることと、帳簿をつけること、監査委員会を作ることを条件にその計画を許可した。さらにお金持ちの子の母親から2ドルの寄付があった。


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ジャックは入金と支出の記帳を始めた



共同購入がいよいよスタートするのだが、あらかじめ注文をとって、必要な品を纏め買いしてくる・・というスタイルではない。彼が選んで仕入れたものを売るのである。安い・良い・便利、の条件が揃っていなければ、各自が自分で直接買いに行って選ぶ自由さに勝てる購買部ではない、とジャックは意識するようになる。本を買いに行って知り合いになり、ジャックの相談役になった文具・書籍店主のタフト氏がダンボールに詰まったきれいな絵柄のカードを見せてくれた。こんなにきれいなのに誰も買わなかった。自分はもう若くない。子供達が何を必要としているか、ジャック君、君のほうが良く知っている・・・ということだ。しかし、クリスマスの前にジャックもクリスマス・新年のお祝いカードを買い揃えた。クラスのみんなは、まだ誰も一人でお祝いカードを出したことが無かったのだ。担任の先生が正しい祝意の書き方を指導して、用意したカードはクリスマスイヴの朝までジャックが保管することになった。みんな親をびっくりさせたかった。そしてクリスマス飾り福袋のような催しも実行した。本屋のタフト氏紹介でおもちゃ問屋に行ったら、そこの社長は黙って大きな箱をジャックに渡した。ただで貰うわけには行かないと、ジャックはクラスの全財産1ドル60セントを支払ったが、後からタフト氏の見積もりでは、その箱の中に15ドル相当の品物が入っていた。
クリスマス飾り福袋は他のクラスの生徒や先生、父兄も買いに来て、ジャックの手元に4ドルが残った。

共同購買がクリスマスという世の中の大きな行事を機会に、学校中さらに親達からも関心を集める成果を残せたことから、共同購買部=これまでやりたかったけど出来なかった事に手が届く、というような上昇志向を、クラスメート達にもたらした。共同のスケート靴やサッカーボール、サーカスを見に行きたい、クラス全員で写真館に行き記念撮影、と次々、ある子が思いついたアイデアを、ジャックが具体的な運営方法を考えて実現していく。たとえばスケート靴貸し料金を決めて、スケートで遊んだ子から集めて、次のサッカーボールを買う、というやり方。


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先生とクラスメート全員で記念撮影


もうみんなはジャックが何を買うといっても驚かなくなった。ジャックなら自動車だって買えるだろう、しかしまず自転車が欲しい!自転車に乗れるようになりたい!これは男の子たちにとって強烈に魅力的な買い物だった。しかし高い買い物だった。分割払いにしてもらい、自転車の練習料金を返済に充てるという方法がうまくいっていた矢先、日曜日に遠乗りに出た二人のクラスメートが自転車を盗まれてしまう。

この自転車盗難事件は、本の中では後半の200ページ目に発生するのだが、そこから最後までの20ページに、コルチャック先生とキンダーランドのつながりは、この部分ではないかと、考えさせられる展開があった。

続く
by kokouozumi | 2015-01-25 05:12 | Comments(0)

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