人々と経済
2013年 04月 01日
冬の日のこと。
泥んこ足で帰ってきたパンクを追い掛け回していたら、彼は新聞の上に逃げ込んだ。
陶芸工房では新聞は読むためより、急な乾燥を防ぐカバーとして、梱包材としての利用度が高い。ときどき偶然開いたページの内容に作業の手を止めることもある。今回はパンクの泥んこ足がきっかけだった。
この風景写真を思わず注視したが、『原子の町』というタイトルに気が重くなった。読まずに無視するわけにもいかない・・・。
「もし、何か危険に感じられることがありましたら、指摘してください。外部の方のほうが私たちより、多くを御覧になると思いますから。バスに乗り込むときに、案内人が発した言葉に耳を疑った。しかしこれは冗談ではなく、まじめな問いかけなのだろう。」
記者を乗せた小型取材バスはセラフィールドの入り口で取材許可証のチェックを受け、その敷地内へと走り出す。
「イギリス北西の突端、アイリッシュ海に望みかつてケルト系のカンブリア人が住んでいたと聞けば、妖精が住む幻想的なイメージを持つのだが、ここほど多くのプルトニウムを有する場所は世界の何処にもない。長崎に落とされた原爆は6kのプルトニウムなら、セラフォールド(Sellafield)には112000kgという天文学的数字の黄色い粉が金属管の中に詰まっている。このプルトニウムは焼却済み原子炉からの残留物を再生処理したもので、およそ50年代から世界中の核燃料物質を加工している。ドイツもその上位顧客のひとつだった。
6km2 の敷地に約1400の建物が収容されているセラフィールドは、世界で最も危険な場所のひとつといわれているが、この使用済み核燃料の再生処理施設も、需要不足の理由で2018年には閉鎖の予定。福島の事故以来、海外からの問い合わせが全くなくなってしまった。その後に残されるのは放射能を帯びた廃棄物の廃墟。
バスの向かう前方に、がっしりしたコンクリート製煙突が1本見えている。既に閉鎖されているウィンドケーズ(Windscale)のもの。ウィンドケーズとはイギリス政府が第二次大戦直後の50年代に開設した、核兵器のためにプルトニウムを製造していたウィンドケーズ原子力研究所のことだが、長くは続かず1957年にこの煙突から火を噴いため、閉鎖となった。今日まで、それはイギリス最大の原子力事故とされている。125mの高さで今も聳えるこの煙突は、冷戦時代の核に汚染された記念碑ということになる。その背後にはコルダー・ホール(Calder Hall)ひっそりと控えている。世界初の営利を目的とした原子力発電所である。50年代当時、信望を集めたハイテク施設は1956年に作動を開始したが、10年前に廃業している。いつ発電所が解体されるかは、いまだわからない。
Sellafieldはまるで原子産業の陰鬱な博物館のようだ。しかし恐れられているのは、目に見える核の歴史的残骸物ではなく、放射能を温存しているだろう周辺の環境である。敷地内の水プールには60年代から高放射性廃棄物が貯蔵されている。今では腐った核の沼に鳥が出入りしている。再生施設は海に面しているが、80年代まで相当量の汚染水が海に流されていた。そのことは、周辺の国、アイルランドやノルウェイにとって長い間、重圧となっている。重金属、プルトニウムの半減期は24000年。それが海底に堆積されている。」
記事の前半はそのように、取材バスが辿る風景とともに、『原子の町』Atomstadtという見出しの来歴を伝えている。この記事はフランクフルター・アルゲマインの経済面、2ページ目、全面記事として掲載されているが、そのページには『人々と経済』という紙面タイトルが付いていた。その後しばらく同紙の経済面に注意していたが、『企業人』というのはよくあっても、『人々と経済』というタイトルは一回性のものだったようだ。
記事はその後、セラフィールドの現在を伝えるために人々とのインタビューを軸にして展開していく。
「セラフィールドから北にわずか数キロの位置にホワイトハーヴェン(Whitehaven)という町がある。住民2500人。メインストリートにはセコンドハンドの商店が軒を連ねている。幼子を乳母車に乗せて、そこを通りかかった母親は、「多少私たちは無知かもしれない。ここで生活するには知らないでいるしかないのよ・・」と、困惑気味に言う。その夫は「核企業なくして、この町は存続しないだろう」と説明する。セラフィールドは約1300の職場を高給で提供している。
ホワイトハーヴェン地方紙を見ると、「セラフィールドにはスコットランドの原子力発電所から、更なる放射性廃棄物が入る予定である。約44トンが5年間に渡って運びまれる予定。」ドイツではセラフィールドへの輸送船ボイコットのため、座り込みデモが行われていたが、この町にとっては、それらの危険物の到着がまるで喜ばしニュースになっている。そして財政窮乏の自治体は代償としてイギリス原子力廃止借置機関(NDA)から百万ユーロ相当の補助金を期待できる・・・と続く。
長いのでこちらも後半に続けます。
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M野
at 2013-04-01 16:23
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セラフィールド…チェリャビンスク-65…スリーマイル…チェルノブイリ…フクシマ…そしてハンフォード。
次はどこだろうか。
次はどこだろうか。
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うお
at 2013-04-02 13:16
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M野さん
次はどこだろうか。
これも冗談ではなく、まじめな問いかけですね。
この記事にもあるように50年代、世界中で信望を集めた原子力エネルギー。いま莫大な費用のかかるその廃棄物処理、あるいは再生利用?
事故のおこった場所が遠いとか近いの話ではなくなりました。
次はどこだろうか。
これも冗談ではなく、まじめな問いかけですね。
この記事にもあるように50年代、世界中で信望を集めた原子力エネルギー。いま莫大な費用のかかるその廃棄物処理、あるいは再生利用?
事故のおこった場所が遠いとか近いの話ではなくなりました。
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M野
at 2013-04-04 01:11
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5年ほど前でしょうか、アメリカのメシジスト派キリスト教徒の共同体が注目されました。あの1890年までの文明で生活している共同体です。確かに自然との共生では理想に近いのですが、まあどうなんでしょうねとなったように思います。
あの事故以降、それではメシジストやクエーカーの生き方が見直されているかと言えば、全くないように感じます。
やはりエネルギーを使える幸せと彼らと比べれば、使った方が幸福度が高いと誰もが思うと思います。だから都市は不夜城になるのです。
原発の高いエネルギーは、諸刃です。ドイツではそれを悩んだと思います。
高濃度廃棄物を土中廃棄しても、2万年後に人類がいたらその中に含まれる金とがプラチナを取り出すために掘り返す可能性がある、と科学者は考えているようです。
あの事故以降、それではメシジストやクエーカーの生き方が見直されているかと言えば、全くないように感じます。
やはりエネルギーを使える幸せと彼らと比べれば、使った方が幸福度が高いと誰もが思うと思います。だから都市は不夜城になるのです。
原発の高いエネルギーは、諸刃です。ドイツではそれを悩んだと思います。
高濃度廃棄物を土中廃棄しても、2万年後に人類がいたらその中に含まれる金とがプラチナを取り出すために掘り返す可能性がある、と科学者は考えているようです。
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うお
at 2013-04-11 04:53
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M野さん
実は急なことで、2日に日本へ飛びました。昨日帰り放り出していた仕事を片付けるべく、時差ぼけを利用して、早朝から仕事。今これも時差ぼけのため朦朧としているところです。
まずはコメントをゆっくり拝読いたします。
実は急なことで、2日に日本へ飛びました。昨日帰り放り出していた仕事を片付けるべく、時差ぼけを利用して、早朝から仕事。今これも時差ぼけのため朦朧としているところです。
まずはコメントをゆっくり拝読いたします。
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M野
at 2013-04-12 00:54
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おや日本にいらしたのですか。円安でちょうど良かったですかね。
急な帰国とは穏やかではありませんね。
急な帰国とは穏やかではありませんね。
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うお
at 2013-04-13 05:37
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M野さん
山済みの仕事で、あっという間に時差ぼけ回避と言いたいところですが、つい昼寝なぞしてしまうと翌日まで寝てしまいそうな、危ないところもあります。
ある団体の生き方提示はいつも話題性があって面白いですが、歴史全体を見ると、後戻り思考は結果的によい解決策ではなかったとも言えそうです。
福島原発では決死の作業が続けられていますが、それが何のためかよくわからない。しかしそこにエネルギー問題の鍵があるのだろうか?今現在の人々の恐れに、はっきり回答できるものがない、それが問題だとしたら
科学者が2万年後を考えているように、核兵器からハイテク原子力エネルギーへ移行した行く末を、とことん究明してほしい。
それなくして、新しい、耳障りの良いエネルギーに切り替えても、新しい問題に直面することになりそうだと、漠然と予想しています。
山済みの仕事で、あっという間に時差ぼけ回避と言いたいところですが、つい昼寝なぞしてしまうと翌日まで寝てしまいそうな、危ないところもあります。
ある団体の生き方提示はいつも話題性があって面白いですが、歴史全体を見ると、後戻り思考は結果的によい解決策ではなかったとも言えそうです。
福島原発では決死の作業が続けられていますが、それが何のためかよくわからない。しかしそこにエネルギー問題の鍵があるのだろうか?今現在の人々の恐れに、はっきり回答できるものがない、それが問題だとしたら
科学者が2万年後を考えているように、核兵器からハイテク原子力エネルギーへ移行した行く末を、とことん究明してほしい。
それなくして、新しい、耳障りの良いエネルギーに切り替えても、新しい問題に直面することになりそうだと、漠然と予想しています。
by kokouozumi
| 2013-04-01 07:03
| 人々
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Comments(6)