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ロック・小次郎 ポスターになる



ドイツ世間一般は、第三アドヴェントを迎え、私もこの日曜ぐらいはのんびりクッキーを焼いているはずでした。(聖夜4週前から日曜日ごとに第一、第二アドヴェントと数える。アドヴェントAdventは到来・接近・臨席などのギリシャ語の概念を起源とする。)
それなのに大量のロックポスターを携えて、電車に乗っているとは・・・

始まりは第一アドヴェントを前にした木曜日。2階の新しい住人、チェロ奏者の女性が帰宅してから部屋の鍵を忘れたことに気が付いた、というので同居人が帰るまで、私の部屋に救済することにしました。そこまではアドヴェント時期にふさわしい話ではないかと思ったのです。救済されたカロはお茶をすすりながら、近くの森を通り過ぎるとき、犬が猫を追いかけていなくなり、探している人に会ったと話します。「そういえばロックがまだ帰ってこない・・・」
そうだ!今日の午後ロックは自転車から飛び降りそのまま消えてしまったのだ。

パンクの【自転車追っかけ猫】ぶりは、すっかり近所でも有名で、自転車走者は彼を振り切るために、必死でペダルをこぐことになります。私は隣のハナちゃんや2階のユリアネなど犠牲者からそのように報告を受けていました。ロックは違います。自分のテリトリーを外れて追いかけてしまうことはありません。しかしその日の午後は珍しく元気に走ってきました。私も気を許し、いつもの散歩道とは違うけれど、連れて行こうかなと思っているとき、向こうからやってくる犬を発見。とっさに自転車籠へロックを乗せてしまいました。森の中を散歩する際、路上のことごとくを確認しながらついて来るロックと、さっさといってしまうパンクの距離を縮めるために、ロックを自転車籠に乗せて運搬することは何度もありました。その状況では、また私が降ろしてあげるまで、おとなしく籠に納まっているロックです。しかし犬に気が付いたロックは、すかさず自ら飛び降りて、どこかの生垣に消えてしまいました。

それっきりロックがまだ帰っていないことを忘れていました。カロが無事に自分の部屋に入れたのは、もう夜の11時を過ぎていましたが、私とパンクはロック捜索に出かけました。自転車から飛び降りた辺り、その道からさらに迷い込みそうな道を辿っても、ロックの気配は全くありません。その夜、夢を見ました。白・黒模様の猫が何匹も並んでいる中で、私は『どれもロックじゃない!』と呟いています。奥から誰かが猫を差し出しました。包帯を巻いたロックです。でも全然悲劇的でない、いつもの、抱かれると『おとなしくしていると、チーズのひとかけらも出てくるかな?』と思っているような喜劇的な顔をしています。私は彼が無事に違いないと確信しました。

無事に違いなくても、どうやって探すか・・・。ここであまりにも無防備なこれまでの猫管理に直面しました。住所を書きこんだ首輪も登録番号を記すチップも無い。ロック失踪2日目の夜、ポスターを作りました。3日目の夜、猫達の元親から「ポスターを見た人から電話来た?」と聞かれ、まだ張っていないと白状すると、何でさっさと行動しないのかと、当然の叱咤激励。3日3晩も戻ってこないとなると、流石に余裕をなくした4日目、第一アドヴェントの早朝。作ったポスターにビニールカバーを被せ、ぶら下げる紐を取り付け、ポスター張り七つ道具(鋏、セロテープ、カッター、予備の紐など)をバックに入れて出動。一枚目は【失踪犬・猫掲示板】に。(この辺はペットの散歩道が多いので、近くにそのような設備がたまたまあった。)2枚目はあの樹と近づくと、そこには既に一枚のポスター『木曜日の夕方、白・黒の猫が飛び込んできました』
そのポスターを引きちぎって、家に飛んで帰ったのは言うまでもありません。


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12月はみんな何だか忙しい。私が不在の時、パンク、ロックを見てくださる2階の住人も予定が一杯なので、2匹は陶芸教室会場、元親の工房に預けっぱなしということになりました。私だけフライブルクへの往復を繰り返し、今年最後の教室が終わったら、3匹!!で帰還のはずでした。しかし第三アドヴェントを前にした木曜日、ロックが帰ってこないと電話がありました。タイミング悪く寛太元親は金曜日から日曜日まで剣道合宿で不在。お知り合いが、朝と夕方だけえさ係をすることになっていた矢先でした。寛太選手が出かけてからも、その家の大家さんや近所のミルクママを引き取ってくださった猫愛好おばあちゃんとの電話連絡を引き受けながら、はたと思いました。「そうだ、今度はさっさと行動しよう!」そうして、既に下書きのあるポスターの日にちだけを変更し、10枚ほどさっさとプリントして、駅に向ったのです。





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ロックは放浪生活に味を占めたのだろうか。前回はたまたま動物好きの家に飛び込み、その家のペット、つまりその家の統治者でもあるテリア系の小型犬との確執はあったものの、3日間ぬくぬくと保護されていたのでした。もう3日引き取りが遅れたなら、ワンコちゃんの地位は・・・。しかし今度は、見知らぬ場所に連れて行かれ(生後2ヶ月目にそこで生活したことは忘れて)、しかも私という優秀な召使を失い、『こんな家から出てやる!』と切れてしまったか?電車を待ちながら駅内の本屋を覗いていたら、クリスマスシーズンに売り出しをかけている本の山に『クリスマスにやって来た猫』というのを見つけました。クリーブランド・エーモリーという動物保護基金を組織したジャーナリストの一冊。「少しはロックの行動が理解できるかしら」と、あまりにもタイムリーな題名の本をポスターの入っているバックに収めました。

エーモリー氏がクリスマス前夜にニューヨークの街中で助け出した2歳猫を、それから1ヶ月もしないうちにハリウッドまで連れて行こうとしたとき、友人達、特に猫好きの人々から止めたほうがいいと、様々な説得を受けました。テリトリーを越えた猫は、鰐やオランウータンを同行するよりましかもしれないが、泣き虫の子供、病気の金魚、小さすぎる車より酷いことになるとか。猫グッズ(水、餌、トイレ、猫砂、タオル、ウェットティッシュ・・・これは猫ではなく自分のために)を目的地に着くまでの分、抱えていける旅の長さの限界は、などなど。エーモリー氏は彼らの助言に耳を貸さずに反論します。果たして猫のテリトリーにはどんな規定があるだろうか?マッターホルンに登った猫がいるぞ!『飼い主の登山家が登頂を試みている間、麓のホテルで待っているはずだったマットは登山家のグループが頂上を極め、互いの健闘を讃えあっているとき、直ぐ下からMiauと苦しそうに叫んでこのお祝いに参加した。』彼は4477mの高さまで後を追ってきたのだぞ・・。シーラ・バーンフォードの「信じられない旅」では500kmのカナダ原野を猫が2匹の犬を助けて旅したぞ。さらにさらに、いまだ破られていないだろう猫の旅、最長記録! ニューヨークからカリフォルニアに引っ越した獣医さんが、ニューヨークの彼女の元に置いていった猫は、5ヵ月後にこれまで一回しか連れて行ったことの無い4800km離れたカリフォルニアの家の庭でMiau!! エーモリー氏は『だから私はちょっとした旅に猫を連れて行くのだ!』と、訳のわからない反論をするのです。・・ふと車窓に反対方向に向って走るロック小次郎が映ったような気がしました。はははロックが?まさか。

寛太工房に到着し、最高に優しい猫なで声でロックを呼び続けてみましたが、反応はありません。「よ~し、その気ならこちらにも覚悟がある!」と心で思いかけて、その思いを慌てて消しました。ロックに心を読まれたらまずい。とにかく明日の開戦ということで寝てしまいましたが、耳だけは外の物音をキャッチしていました。夜中の12時過ぎ、微かにMiauを聞いたように思い、ドアを開けたらロックが飛び込んできました。おー帰ってきたか!あれっ、濡れていない??今夜は雪になり、私が来てすぐ外で遊ばせたパンクは濡れて帰ってきたのに・・・





とにかく
結局作り続けたポスターを、幸い使わずに終わった今年のアドヴェントの日々でした。









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第三アドヴェントの日曜日。両サイドにくつろぐパンク・ロックを眺め、来て良かった・・・



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Commented by seedsbook at 2009-12-14 15:26 x
。。。ということはロックは去年、今年とアドヴェントになるとちょっと消えているわけですか?
きっと何かの使命を負っているに違いありません。なんていったってこの時期は特別ですから。。。。笑
パンク、ロックの寝姿がなんと愛らしい。

寒くなってきましたね。
Commented by tomato at 2009-12-14 21:51 x
「ロック・小次郎、ポスターになる」ということだったので、
てっきり何かにデビューでもしたのか、おめでとう~、と言いそうになりました。

私は猫を飼ったことがないからわからないのですが、
二三日帰ってこないのはザラなのかなあ、と思っていました。
犬ではそうはいきませんもんねえ・・・・

いずれにしても無事に帰ってきてよかったですね・・・・
Commented by 寛太 at 2009-12-15 01:17 x
200kmを猫のため往復 本当にご苦労さんでした
だけど飼い主の気配で帰ってくるとは 見上げたものというか、、、 
それとも 魚さん寝てて いびきとか 歯軋りとか 口笛とか 猫寄せしたんですかねー(笑)
まったく子猫は世話が焼けますなー
今日は外マイナス5度 ロックは出してないけど パンクは出してもあまりの寒さにすぐ飛び込んできます
今は夕ご飯食べて写真のように2匹ともクークー寝てますよ
寝顔を見るとほっとしますね
Commented by うお at 2009-12-15 07:35 x
seedsbookさん
ロックは今年4月末に生まれたので、今年いろいろ騒ぎを起こしているのです。来年も・・・いや始終はらはらさせられます。初めての町で、歳末助け合い猫会議にでも出席するような、優秀な猫ならともかく、猫の行動は謎です。でもね、アドヴェントの日々をああよかった~~と思いながら迎えたのですから、何か?使命を果たしたのかもしれません。寝姿を無邪気な天使と思いましょう(笑)
急に寒波がやってきましたね。お互い元気で年末を過ごしましょう!
Commented by うお at 2009-12-15 07:53 x
tomato さん
全くのところ大袈裟なタイトルでお騒がせしました。ロック捜索ポスターは、早朝に保護してくださった家に迎えに行くまで約1時間ほど、1枚だけ張られていたのですが、なんと見てその内容を覚えていた方に会いました。住居とは程遠い街中の歯医者さんに今年の定期検診にいったら、そこの看護婦さんに突然『猫ちゃん見つかりました?』と聞かれてびっくり!ロック小次郎若干有名になりました。(爆笑)
そうそう、雄猫は時々遠出して数日帰ってこないらしいです。待てばよかったのですが、帰らないまま出発した寛太さんや、聞き込みをしたご近所の方々が、この寒い時期ゆえ数日心配を続けるなら、私が動こうと判断し、効果があってホッとしています。Tomatoさんはワンちゃんに心配したこと有りましたか?お宅のワンちゃん登場もちょっと楽しみです!
Commented by うお at 2009-12-15 08:06 x
寛太さん
お陰で面白い本もみつけ、電車の中で大笑いしながら旅しました。猫ちゃんの500kはたまた4800kmの旅を思うと人間の200k往復は楽なものですね。
寝ながら『おいロック鶏肉白クリーム煮もってきたー』と唱えてみたら、奴はまんまとおびき寄せられましたね。夜中に戻って、クリーム煮2杯も平らげました!翌日パンクとロックにゴールド缶も買ってやりましたから、現在相当グルメ嗜好になっていると思います!あしからず。
ほんと、失踪事件などあると、ただ寝ているだけで可愛いと思えます。『僕かわいいでしょう』と、ロックは確認したかったのかな?
Commented by Mの at 2009-12-17 00:36 x
猫ですね。
たぶんきっとサンタを探しに行ったのかな。
Commented by うお at 2009-12-17 07:34 x
Mのさん
そうか、サンタさんに『僕には寝心地のよいソファー、兄ちゃんには自転車ね』なんてお願いしてたのかな。サンタさん持ち合わせが無くて『じゃーゴールド缶でいいよ』と、交渉に手間取っていたかも知れません。そのうち名付け親さんのところにも何か届くかも。玄関先に子鼠が転がっていたら、それはロックからの・・・
Commented by 河西文彦 at 2009-12-23 07:31 x
しばらく御無沙汰いたして居りました! 世間では色々 ハプニングが起こっているのですね。此方もやっと 何とかクリスマスマーケット が雪で化粧されて ムードが出て来ました、本日 夏の陶芸教室での思い出が届きました家内にとって 嬉しイプレゼントでした。 初めての作品を見て 又 土をこねたいと「ダダをこねています。
Commented by うお at 2009-12-24 08:25 x
ほんとにお待たせしてごめんなさいね。でもクリスマスに間に合ってよかった。お店に並べてもきっと良いですよ、あの器!次回はお二人で大量生産しますか。
河西さんのところも明日からクリスマス休業ですね。27日までお休みですか?そちらでもあの映画『おくりびと』が上映されていますよね。日本人の間では、早速CDを調達してみたという話が多かったのですが、私はドイツ封切りされてから見てきました。かなりの観客でしたし、これまでの経験では、最後の字幕になると帰りを急ぎ、数人が席を立つと、つられて次々立ってしまうものですが、この映画の時は誰一人席を離れることが無く、字幕の背景に見える『おくりびと』の挙動に見とれているようでした。
私自身、変な話ですがこれまであまり実感として感じることの無かった、武道の型や茶道の型というものの、有り方を初めて考えることができました。
by kokouozumi | 2009-12-13 16:38 | Comments(10)

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