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神話

しんちゃんとシロがある本屋さんのショーウィンドウに入るというので、どんなことになっているか、行ってみました。
私も見落としそうになったくらい、ほとんど誰も気が付かない感じで置かれていました。
本屋の中に入って真ん中に立つと、そこにある全ての書籍がだいたい見えてしまうくらい小さな空間でしたから、直ぐこの一冊に目が止まりました。興味津々で中を覗き、さすがに面白い絵だわと感心しながら、棚に戻し、「しかし誰が書いたの?」と又取り出し、知らない作家の名前だけを確認して棚に戻すとき、作家の経歴冒頭にある数字、1899年が記憶に残り、「あれっ!この本は古いのだろうか??」などと、その本を手にしたり戻したり繰り返していると、本屋の女主人が「持っていっていいわよ」といいます。うまい!そういわれると持っていくしかないような気持ちになってしまいました。





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1899年ライプチヒに生まれ、(1991年没)帝国時代の裕福な家庭環境で育ったアレックス・エッゲブレヒトは、1917年に志願兵としてフランスの陣地戦に参戦して重傷を負い、その後の人生は後遺症を携えることになった。第一次大戦後の混乱期には左翼に走りながら、モスクワ滞在の印象で気持ちが離れ、一切の政治活動から遠のいてしまう。その後の作家活動(後に放送劇や映画の脚本)や晩年のラジオ放送の解説者という仕事の中で、社会やヒューマニズムのテーマから離れることはなかった。絵本「猫」は1927年に彼の処女作として出版された。その後1954年、67年と思い出したように再版が続き、その後はある出版社が版権を得て、定期的に再版されるようになった。挿絵に関しては、これまで2度イラストレーターが替わり、2009年度版になって、あの「子供大学」の印象的な挿絵を以前紹介したKlaus・Ensikatが三番手として登場。





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大人向けの絵本です。作者は全くの猫好きらしく、猫のありとあらゆることを知っているようです。「世界の歴史」の章は、『ある時から人間は人間になった・・そのことを自然界の例外と感じ、成長し生まれ来る全てのものの中で、唯一創造されたことを望んだ・・』そして『宗教史とはそういった人間の思い上がりの歴史かもしれない』と続きます。それが猫の歴史の導入です。そして人間と動物の関係は宗教儀式だったのか、使役という功利主義だったのかと続きますから、なにか奇妙な感覚がまず用意されるといった具合です。

人間と猫が最初に付き合いだしたのは、エジプト文明らしいと、私もなんとなく知っていましたが、この本ではさらに面白く詳しい神話が語られます。地球上の支配者と彼の動物神官について無関心だったなら、野生猫の自由で孤独な大いなる尊厳は不気味なものにしか思われないだろう、と作者の猫感がこの一言に込められているように神話は始まります。『世界中で狩猟の人々はライオン、ジャガー、豹といった猛獣におびえていた。定住し君主制の形をとると、その人間になじもうとしない動物を動物帝国の王と考え、自分達の神殿に招いて、気持ちを和らげようとした。そのようにエジプトではライオンの女神が登場した。ライオン神は自分の神聖な役割をまじめに勤めていたが、時々香を焚きに来た番人を朝食にしてしまった。・・ある日、多分2500年ぐらい前に、賢い神官が新しい動物神を探す旅に参加した。ヌビア(リビア)で彼はマウミという名前の、小さな、黄色い毛の、若いライオンそっくりの動物と出遭った。とても柔らかな、静かな性格であるらしい・・・』現在世界中で飼われている家猫のルーツがリビアヤマネコであると、2007年のサイエンス誌に発表されたということだから、神話も馬鹿にならないものです。こうして便利な小型版がライオン神に取って代わった。『このように古い信仰の規定がちょっと変更されるのは、大抵ある熱狂によってである。人々はこの新しい神に夢中になり、よく世話したので、やがてナイルの地を十万もの猫が埋め尽くすようになったことを、覚えていて欲しい』、と作者は続けます。

その頃、取り引きというものが始まって、あらゆるものが売り買いされるようになると、その土地の宗教観もついて廻るようになり、猫は航海や戦士の守り神のお供として、遠くに伝えられるようになったのですが、行く先々で扱いが変化していきます。特にヨーロッパではキリスト教が動物神を否定して、猫も魔性のもの、不吉なものとする感覚が生まれます。『中東や中国での扱いはずっとましだった・・・』と猫の世界史は続いていきます。








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他の何篇かの猫に纏わる話の中で「英雄の死」という一編は、作者の経歴にある、フランスでの塹壕戦へ参加したときの体験談かと思われます。最後の塹壕と猫のこの話を読むと、エッゲブレヒトが様々な話をこの本に集めたかった猫への思いという、一筋の強力な意識の線がひかれます。現代の人間が猫の役割として安易に思い浮かべること、戦争の最中であったとしても、そのことから起きてしまった悲惨な結果。



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人間が自然の例外的な存在として、整えてきた街角を、通りを、屋根の上を猫が横切るとき、人は遠い自然にふと出会うことがあるかもしれない・・・と作者は考えます。
Commented by tomato at 2009-10-25 07:18 x
うおさん、おはようございます
ドイツも随分と寒くなったでしょうか。
仙台も暖が恋しくなりつつあります。まだ、我慢していますが・・・・

素敵な挿絵ですね。私はミュシャ(ムハ)の絵が好きなんですが、
二枚目の猫ちゃんの絵は、構図を含めミュシャに似ていていいなあ、と思いました・・・・

Hundenという挿絵付きの本があったら紹介して下さいね。
うちのポメラニアンはドイツ生まれだし・・・・
Commented by うお at 2009-10-26 05:25 x
Tomatoさん、早起きTomatoさんに一日遅れで、お早うございます。
こちらはもう、少しづつ暖房を入れています。外に出ると思ったほど冷たくなくて、自転車も帽子なしでまだ大丈夫なくらいです。

チェコのアルフォンス・ミッシャですね。多分この「猫」の著者と同じ世代の画家だと思います。今ドイツでは1920年代に関心が寄せられている感がありますが、その時代を語る人がいなくなって、失われた時代になってしまったからです。エッゲブレヒトの著書も20年代を伝える貴重なものになりつつあるようです。ミッシャの絵もその意味も含めて面白いですね。

Hundenですね。今度探してみましょう、楽しみが増えました。日本の書籍で一度読んでみたいと思っているのは、池田満寿夫の「しっぽのある天使」です。


Commented by KasaiF at 2009-10-26 06:51
本屋で立ち読み、そろばん塾に 行っていることにして時間をつぶして居た。
追い出されはしなかったけれど「持って行って良いよ」と言われたことはいちども無い。その本屋さん教えて! 猫と人間のかかわりって古くからあるんですね。 犬も 赤ん坊も 他人のものは可愛がるのですが 自分の家の居間には 居て欲しくないんです???最近動物の 子共の写真を見たのですが どうして動物(人間も)の子供の目は澄んでいるんでしょうな。
Commented by うお at 2009-10-26 16:11 x
KasaiFさん お早うございます。昨日からの冬時間変更後、寝室の時計がフンクではないので、夏時間のまま、冬にしては早起きしています。

河西さんも店の人を気にしながら立ち読みしていたのですか。でもね「持っていってよい」というのは、この場合追い出されるのよりもっと怖い・・暗に買ってくださいということですよ。

自分の子供や自分の家で飼う動物に愛情一杯で世話した経験が有ると、彼らが成長したら、もういらない!と思うのかな。私は猫にしても、自分で貰ってきたのに家族に任せ、父が入院した際は数ヶ月の間、猫ちゃん家に1匹でお留守番だったこともあり、たまたま猫がやって来た今は、できるだけ付き合ってみたい気持ちです。子供たちの目は見飽きないほど可愛いですね。先日お会いした河西さんや奥様に素敵な目を見ましたよ。
Commented by M野 at 2009-11-04 17:25 x
いい絵ですね。写実的なんだけど、どこか毒のあるような。
近所に推定二十匹の野良猫がいます。彼等はこの冬をどう過ごすのか少し気になりました。この前家の小さな畑で用を足そうとしていたのを、じっと観察していたら恥ずかしがって逃げましたが、春にはまた会えるのでしょうか。
行者ニンニクの種を手に入れました。今日早速蒔いてみましたが、種の休眠が解けるのは、まだ遠い春の話し。そして餃子にするのは三年後です。
池田満寿夫の本ですか。それって犬の話ですよ?でも面白いです。
Commented by うお at 2009-11-05 07:44 x
M野さん
そうなんです。Klaus・Ensikatの挿絵は「何?この本には何が書かれているの?」と胸騒ぎさせるところがあって、読んでみると1920年代の時代感にも似合っていると思いました。
パンクが生まれたへーリンゲン村では猫は野良として暮らすのが当たり前のような環境で、一冬過ぎたら、あの子を見かけなくなったと、弱っちかった猫のことを思っていると、違う通りを元気に歩いていたりします。より良い栄養供給源を目ざとく見つけているようですね。

行者ニンニク楽しみですね。私のテラスの小さな畑というよりは花壇に、数年前ジェニーが植えました。僅かなスペースですが、1年目でニラタマが、3年目には餃子パーティーができるくらいの出来具合ですよ。

犬や猫の本にどんなのがあるのかしらと、探して見つけたのです。池田満寿夫の犬の話は、きっと面白いだろうとおもいました。
by kokouozumi | 2009-10-24 15:33 | Comments(6)

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